監修・対談者紹介
- 佐藤明男
- 東京メモリアルクリニック理事長
さとう美容クリニック院長, 北里大学医学部客員教授, 日本形成外科学会専攻医, 日本臨床毛髪学会理事, 日本先進医師会特定認定再生医療委員会委員長, SKIファーマ株式会社副社長
頭髪に関する内科治療と外科治療まで幅広く実践し、毛髪研究、教育も積極的に行っている。
秋になって「最近、抜け毛が増えた?」と感じる人も多いのではないでしょうか。じつは、秋は頭皮の環境が大きく変わる季節です。本対談ではAnswer編集部が、薄毛治療のオピニオンリーダー佐藤明男先生に「秋のヘア事情」についてお聞きします。全6回にわたる対談の初回は、秋の頭皮がどのような状態にあるのかを専門医の立場から教えていただきます。
目次
秋は頭皮環境が激変!2つの疑問から秋のヘア事情を解明!!
Answer編集部:今年の夏も暑かったですね。日本各地で気温30度を超える真夏日や、気温35度を超える猛暑日が記録されて、この頃ようやく秋らしくなってきました。そこで、今回は「秋のヘア事情」ということで、佐藤先生に詳しく教えていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。
佐藤:こちらこそよろしくお願いします。
Answer編集部:季節による髪の変化というと、梅雨は湿気で広がったり、夏は紫外線による日焼けが気になったりしますが、秋はそこまで気にしていませんでした。秋特有の髪の変化というのはあるのでしょうか。
佐藤:ありますよ。秋は1年の中でも頭皮の環境が大きく変わる季節だと考えられているんです。
Answer編集部:秋に大きく変わるんですか?
佐藤:そうです。犬などの動物には、夏毛や冬毛に抜け替わる換毛期というのがありますよね。人間も動物なので、秋に似たようなメカニズムが働いて、夏から冬へ移行するこの時期に、抜け毛が増える人が多いのです。
Answer編集部:人間も動物と同じように抜け替わりの季節があるとは、とても興味深いお話です。秋に抜け毛が増えて不安な人は、それが季節的な脱毛だと理解することで必要以上に心配しなくていいですね。
疑問を解明!秋の頭皮と髪はこうなっている
佐藤:紫外線や猛暑などの過酷な夏を乗りきった頭皮や髪は、体と同じように疲れた状態です。秋に抜け毛が増加する人もいますが、季節性の脱毛は異常なことではありません。疑問を解明し、正しい知識のもとで適切なケアをしていきましょう。
疑問①秋は抜け毛が増えるってホント?
佐藤:個人差はありますが、秋に抜け毛が増えるのは本当です。
毛髪には「ヘアサイクル(毛周期)」があります。まず、毛穴からうぶ毛のような細い毛が生えて、それが太く長く成長します(成長期)。この成長期の毛が2~6年たつと毛球が退化し(退行期)、抜け落ちます。休止期を経て同じ毛穴から新しい毛が生え、また成長期の毛になります。毛髪はこのサイクルを繰り返しているのです。
このヘアサイクルには、季節性があることが知られています。そもそも人に頭髪がある理由のひとつは、有害な紫外線から頭部の皮膚細胞を守ることです。そのため、北半球の人は春から夏にかけての紫外線が多い時期に成長期の毛が増加します。一方、秋から冬に向かって紫外線が減少すると、成長期の毛は減少し、一部の毛が生え変わろうとして休止期毛が増えます。
ある研究によれば、北半球の人の成長期の毛率は夏には95%なのに対し、冬には85パーセントにまで低下するといわれています。夏と冬では成長期の毛率に約10パーセントもの差があり、その分だけ秋に毛髪が抜け落ちていることになります。春以降になればまた成長期の毛が増えてくるので、秋の抜け毛はそれほど心配することはありません。
疑問②髪の秋バテって本当にあるの?
佐藤:秋バテという言葉が適当かはわかりませんが、頭皮や髪は夏の強い紫外線でダメージを受けています。猛暑が続くと体がバテてしまうのと同じで、頭皮や髪も夏の疲れが残っている状態だといえます。
たとえば、夏の日焼けで頭皮がやけど状態になっていれば、頭皮の中にある髪をつくる幹細胞も傷ついています。こうなると、健康な髪に悪影響を及ぼし、ひどい場合は抜け毛などの深刻なトラブルも生じます。デリケートな状態なうちは、頭皮に負担がかかることは避けたほうがいいでしょう。
また、髪も紫外線によるダメージでキューティクルが剥がれやすい状態になっています。キューティクルとは、髪の外側を覆っているタンパク質の角質層です。キューティクルが整っていると健康で艶やかな髪に見えますが、キューティクルが損傷すると、枝毛や切れ毛、乾燥やパサつき、色の退色などの原因になります。秋の紫外線量は夏に比べて少ないものの、夏の疲れが回復する前に、疲れた髪をさらに痛めないために注意しましょう。
ひょっとしてそれ、秋特有の抜け毛じゃないかも?正常な抜け毛とAGAの違いの見分け方
Answer編集部:夏の紫外線などの影響で、秋は抜け毛が増えるということがよく分かりました。秋の季節的な抜け毛の増加は、男性でも女性でも同じように起こるのですか?
佐藤:抜ける量に個人差はありますが、季節性の生理的な脱毛なので男女ともに起こると考えられます。
Answer編集部:では、この時期の脱毛は、男性も女性もあまり気にすることはないということですね。
佐藤:そうなんですが、季節的な脱毛ではない場合もあるので注意が必要です。特に、男性の場合は、「男性型脱毛症(AGA)」などの体質による薄毛が進行していることも少なくありません。
Answer編集部:秋特有の抜け毛と、AGAを区別する方法はあるのでしょうか?
佐藤:気になる人は、専門医を受診すればAGAかどうかを診断できます。取り急ぎご自分でチェックしたいという人は、頭皮の状態や抜けた毛髪を確認してみてもよいでしょう。
季節的な抜け毛とAGAの違いはここ!
秋は季節的な抜け毛が増えますが、中にはAGAによる薄毛が進行している人もいます。見分けるポイントをいくつかあげますので、チェックしてください。自己診断では不安な人は、専門医に相談してみることです。
見分け方①頭がニオう
佐藤:AGAの人は男性ホルモンの働きによる皮脂の分泌が活発です。これはAGAの原因である「ジヒドロテストステロン(DHT)」という悪玉男性ホルモンが、ホルモン受容体と結合することで皮脂腺を刺激し、皮脂の分泌量が増えるためです。
また、皮脂の質的な変化を起こすため、AGAではない人に比べて頭のニオイがきつくなる傾向があります。頭皮から酸っぱさを伴ったきついニオイがする場合は、AGAによる抜け毛の可能性を疑ってみましょう。
見分け方②抜け毛が細くて短い
佐藤:秋の季節的な生え変わりの場合は太くて長い毛、AGAの場合は細くて短い毛が抜けます。
これはAGAがヘアサイクルの乱れによって起こるためです。正常な場合は2~6年続くはずの毛の成長期が、AGAの人は数カ月~1年程度に短くなります。そのため通常なら太く長く成長するはずの毛が、細くて短いまま抜けていきます。細くて短い毛が抜けていたら、AGAの可能性があります。
見分け方③抜け毛の毛根に膨らみが少ない
佐藤:正常な抜け毛は毛根に膨らみがありますが、AGAによる抜け毛は毛根の膨らみが少ないという特徴があります。これも前述のヘアサイクルの乱れにより、徐々に毛根が委縮していくためです。
Answer編集部:頭のニオイや、抜けた毛髪の状態をチェックすればいいんですね。
佐藤:抜け毛が長く続く方、不安が強い方、抜けた毛髪の状態を自分では判断できないという方は、専門医に相談してもいいかもしれません。
Answer編集部:佐藤先生、ありがとうございました。次回は、薄毛のおしゃれについての疑問をお聞きしていきたいと思います。
ファッションの秋が到来! 薄毛のおしゃれを専門医が徹底指南!!
傷んだ髪はしっかり修復!夏の頭皮ダメージ回復大作戦!! 後編 食のパワーで髪の力をカラダの中から再生しよう!