監修者紹介
- 佐藤明男
- 東京メモリアルクリニック理事長
さとう美容クリニック院長, 北里大学医学部客員教授, 日本形成外科学会専攻医, 日本臨床毛髪学会理事, 日本先進医師会特定認定再生医療委員会委員長, SKIファーマ株式会社副社長
頭髪に関する内科治療と外科治療まで幅広く実践し、毛髪研究、教育も積極的に行っている。
いつもより抜け毛が多く感じられると「薄毛の前兆ではないか?」と心配になります。しかしその抜け毛は季節による一時的な抜け毛かもしれません。
本記事では抜け毛と季節との関連性や、メカニズム、季節的な抜け毛の見分け方を紹介します。
またもし抜け毛が薄毛の初期症状だった場合に取るべき対策法についても解説します。「最近抜け毛が増えたように感じる」という方はぜひ参考にしてください。
目次
通年の平均的な1日の抜け毛の本数は?
(出典:(1)髪の健康を考える〜美しい髪で過ごすには〜)
自然な状態での抜け毛の本数は、1年を通して平均すると1日に約50~100本と言われています。
人間には約10万本の髪の毛があるので、割合としては全体の0.1%ほどが毎日抜け落ちている計算です。
抜け落ちる髪に対して、同程度の数の髪が新しく生えてくるため、全体としての髪の毛の本数はほぼ一定を保っています。
1日に抜ける髪の毛が100本以内であれば、髪の自然なサイクルの一環なので心配はいりません。
抜け毛の多い季節とは
春や秋は抜け毛が様々な要因で増える
(出典:(2)養毛・育毛剤の評価法)
抜け毛の数は季節によっても変化し、春と秋には抜け毛が増えると言われています。
人によっては1日の抜け毛の数が200~300本程度に増えることもあります。平常時が100本程度と考えると、2倍~3倍ほどに増えている計算です。
春と秋に抜け毛が増える理由については、今のところはっきりとしたことはわかっていません。
ただし以下のようなことが要因になっているのではないかと考えられています。
・頭皮の乾燥
・花粉などによる頭皮のアレルギー
・温度差や寒さによる頭皮ストレス
・夏の間に受けた紫外線ダメージ
・夏の間に増えた皮脂分泌の影響
春や秋は季節の変わり目です。寒暖差が激しくなったり花粉などが増えたりして、頭皮がストレスを受けやすい環境にあります。
また湿度も低く、外に出れば乾いた風に頭皮がさらされるため、頭皮が乾燥しやすいです。
さらに秋は、夏の間に受けた紫外線ダメージが蓄積してヘアサイクルが特に乱れやすい時期と言えます。
夏の間に多く分泌された皮脂が毛穴に詰まって、抜け毛を引き起こす可能性も指摘されています。
こうした様々な要因がいくつも重なり合って、春や秋になると抜け毛の本数が自然と増える傾向にあるのです。
夏と冬の抜け毛は比較的少ない
(出典:(3)養毛・育毛剤の評価法, (4)Peroxidation in Human Skin and Its Prevention)
夏と冬は抜け毛が比較的少ない季節と考えられています。
とはいえ夏の間も紫外線や皮脂分泌の増加など、頭皮ストレスにつながる要因はあります。
夏の間に蓄積されたダメージが、夏から秋にかけて抜け毛を増やす要因になることも考えられるため、夏の間から頭皮ダメージに気を付けることが大切です。
冬にしても頭皮の乾燥や血行不良のせいで抜け毛が増えてしまうこともあります。
健やかな頭皮環境を保つために、季節に合わせた頭皮ケアを行うようにしましょう。
ヘアサイクルによっては季節に関係なく抜け毛が増える時期もある
(出典:(5)毛と毛包の解剖・毛髪異常(AGA))
抜け毛の増加が必ずしも季節の影響によるものとは限りません。
ヘアサイクルの乱れによって抜け毛が増えてしまうケースもあります。
髪の毛は成長期・退行期・休止期という3つの段階を経て、最終的に抜け落ちていきます。
しかしヘアサイクルが乱れると髪の成長期が短くなり、本来あるべきよりも早く髪が抜け落ちてしまうようになるのです。
髪の毛全体のボリュームは、抜け毛と新しく生えてくる髪の数がほぼ同数であることで保たれています。
そのため髪の抜け落ちるペースが早くなると、次第に薄毛の症状が進行していきます。
抜け毛をすべて季節のせいにするのは危険!今からできる対策とは?
乾燥対策をする
(出典:(6)毛髪・頭皮に優しい洗浄技術,(7)次世代ニーズを予測するための解析手法の研究 ~シャンプー開発を例として~)
秋や冬のように湿度の低い時期には、頭皮の乾燥対策をすることが大切です。
頭皮は髪の毛が生えてくる土台です。頭皮が乾燥して荒れてしまうと抜け毛が起こりやすくなります。
頭皮を乾燥させる最大の原因は、洗浄力の強すぎるシャンプーです。
頭皮の乾燥を感じるようであれば、シャンプーをさらに頭皮にやさしいものに変えてみましょう。
頭皮の潤いを奪いにくいアミノ酸系のシャンプーがおすすめです。また保湿成分が配合されたシャンプーを試してみるのもよいでしょう。
寒暖差を減らす
寒暖差は頭皮にストレスを与えると言われています。
秋から春にかけては室内と室外の気温差が大きくなりやすいです。冬の場合は20度近い温度差が生まれることもあります。
寒暖差が大きいと体調を崩しやすくなりますが、同じように頭皮にも負担がかかっています。
寒暖差を完全になくすことは難しいですが、外に出るときは帽子をかぶるなどして寒風に頭皮を直にさらさないように工夫してください。
紫外線からのダメージを避ける
(出典:(8)ホソカワミクロンが提唱する内外育毛ケア理論)
夏の強い紫外線は頭皮に大きなダメージを与えます。
頭皮が紫外線にさらされると活性酸素が増加し、頭皮の老化を早めます。すると髪の毛の成長も鈍くなって、抜け毛の増加につながります。
秋に抜け毛が増えやすいのは、夏の紫外線ダメージの影響が関連していると言われています。
夏以外の季節でも屋外にいる間は紫外線ダメージにさらされるため、長時間屋外にいるときは日陰に入ったり帽子をかぶったりして紫外線対策を徹底しましょう。
皮脂が溜まらないようにケアをする
(出典:(9)髪の健康を考える-美しい髪で過ごすには-)
夏は頭皮の皮脂の分泌量が増えて毛穴の詰まりを起こしやすい季節です。
毛穴に皮脂が詰まると髪の毛が細くなって、抜け毛を引き起こす原因になります。
皮脂が詰まらないようにするためには、毎日のシャンプーをしっかり行うことが大切です。
ゴシゴシ洗う必要はありませんが、手指を使って頭皮をやさしくマッサージするように毛穴に溜まった皮脂を洗い流しましょう。
頭皮の皮脂分泌は、油分や糖分の多い食事によっても増加します。
頭皮を指で触ってみて油っぽく感じる方は、食生活にも気を配り、皮脂分泌を増やしすぎないように工夫してください。
運動やマッサージを行って血流を促進する
(出典:(10)地肌マッサージの頭皮への作用)
秋から冬にかけて気温が下がってくると、全身の血行が悪化します。
髪の毛に栄養を運んでいるのは血液です。頭皮の血流が悪くなると、十分な栄養が行き届かなくなって抜け毛が起こりやすくなります。
そのため寒い季節には、体を冷やさないように気を付けたり適度な運動を行ったりして、血行の悪化を防ぎましょう。
お風呂上がりなどに頭皮マッサージをするのも非常に効果的です。頭皮をやさしく揉みほぐすことで、頭皮の血行を直接促進できます。
季節による自然な抜け毛なのか確認することも重要
抜け毛の多くはシャンプー中に起きている
(出典:(11)養毛・育毛剤の評価法)
抜け毛のうちの5割~7割程度はシャンプーをしたときに抜け落ちています。
ただしすでに抜けていた髪が洗い流されるという側面もあるため、すべてがシャンプーの影響によって抜けているわけではありません。
シャンプー後に排水溝を見ることで、どのくらいの髪の毛が抜けたのかが確認できます。抜け毛が気になる方は、異常な量の毛が溜まっていないかをチェックしてみましょう。
夏や冬なら50~70本程度、抜け毛が増えやすい秋や春なら100~200本程度に収まっていれば、自然な抜け毛の範囲と考えてよいでしょう。
抜け毛は個人差がある
1日に抜け落ちる髪の量には個人差があります。
毎日50本ずつ抜ける人もいれば、100本ずつ抜けるのが正常なヘアサイクルの人もいます。
そのため「何本以上だったら危険」と単純に考えるのではなく、「普段と比べてどのくらい増えているか?」という面からも考えてみることが必要です。
また同じ人であっても、日によって抜け毛の数が上限することは珍しくありません。
抜け毛が気になったらしばらく観察をつづけ、抜け毛の数がどのように変化しているのかを追うようにしましょう。
抜け毛は本数だけでなく形も気にする
本数だけでなく、抜けた毛の形状や太さも欠かさずチェックしましょう。
季節的な抜け毛と薄毛の症状としての抜け毛を見分ける上でもっともわかりやすい違いは、抜け毛の状態にあります。
季節の影響による抜け毛の場合、抜け落ちた髪の毛は太くてしっかりした毛です。根っこの部分の毛球もぷっくりと膨らんでいます。
それに対して薄毛の初期症状の場合、抜けた髪の毛は細くて短く、毛球も膨らみが小さいです。
薄毛の場合はヘアサイクルが乱れて、髪の毛の成長が途中で止まってしまい、抜け毛が起きています。そのため髪の毛は見るからに発育不足で弱々しい印象になるのです。
寝起きに枕元に落ちている抜け毛を拾って観察してみてください。細くて短い毛が多かったら、薄毛の初期症状を疑ってみる必要があります。
抜け毛の季節まとめ
抜け毛と季節の関係性や抜け毛を減らすための対策法、抜け毛の見分け方について解説しました。
抜け毛は季節によって多少増えたり減ったりするのが自然な状態です。
ただし薄毛の初期症状というケースもあるため、短絡的にすべてを季節のせいと考えるのは危険と言えます。
「抜け毛が増えたかも?」と思ったとき、それが季節的なものなのか、薄毛の初期症状なのか、しっかり見極めることが肝心です。
本記事で紹介した見分け方を参考にして、自分の抜け毛がどちらに当てはまりそうかを考え、今後のヘアケアの参考にしてください。
文献
1).9).順天堂醫事雑誌/59 巻 (2013) 4 号/書誌
2).3).11).順天堂医学/37 巻 (1991-1992) 4 号/書誌
4).Journal of Japan Oil Chemists’ Society/Volume 44 (1995) Issue
4/Article overvie
5).日本香粧品学会誌/42 巻 (2018) 2 号/ p. 93-97
6).J.Soc.Cosmet.Chem.Jpn. 特集総説47(1) 3-8(2013)
7).情報の科学と技術/67 巻 (2017) 4 号/ P.194-201
8).粉砕/61 巻 (2018)/書誌
10).日本化粧品技術者会誌/48 巻 (2014) 2 号
監修者紹介
- 佐藤明男
- 東京メモリアルクリニック理事長
■ プロフィール
1957年新潟県生まれ。北里大学医学部卒業。
1998年、厚生省(当時) 高度先進医療推進事業でオックスフォード大学医学部客員研究員として英国に国費留学し、帰国後、東京メモリアルクリニック・平山副院長を経て院長に就任。医療法人TMC理事長を兼任。これまで10,000人を超えるAGA(男性型脱毛症)患者を治療してきた実績を持つ、頭髪治療の第一人者。
■論文・出版情報
2007年 『医療的育毛革命』
2009年 『なぜグリーン車にはハゲが多いのか』