監修者紹介
- 佐藤明男
- 東京メモリアルクリニック理事長
さとう美容クリニック院長, 北里大学医学部客員教授, 日本形成外科学会専攻医, 日本臨床毛髪学会理事, 日本先進医師会特定認定再生医療委員会委員長, SKIファーマ株式会社副社長
頭髪に関する内科治療と外科治療まで幅広く実践し、毛髪研究、教育も積極的に行っている。
髪の毛は抜けても再び生えてきます。それでもシャンプーの時などに、髪の毛が指に絡まっているのを見ると不安になることがあります。抜け毛が増えた場合、それは薄毛が始まっているサインなのでしょうか。
抜け毛は本数だけでなく、抜けた毛そのものをチェックすることも大切です。本記事では1日に抜ける一般的な本数や、チェックすべきポイントについて解説します。抜け毛の本数をある程度把握するなら適切な薄毛対策が可能です。
その抜け毛正常?一般的な本数とは
1日に抜ける本数は多くて100本程
(出典:(1)髪の健康を考える〜美しい髪で過ごすには〜)
日本人の髪の毛は平均約10万本あるとされていますが、1本1本には寿命があります。寿命により髪の毛は抜け落ちて、同じ毛穴から再び新しい髪の毛が生えてきます。1日に抜ける本数は多くても100本程で、全体の約0.1%です。
シャンプーの時に抜け毛が多く感じられますが、それはすでに抜けた髪の毛が洗い流されるためです.
季節によっては200本になることも
(出典:(2)毛髪の紫外線ダメージ—評価指標とダメージケア—)
毎日同じ本数がきっちり抜けるのではなく、日によって多いことも少ないこともあります。季節によってもかわり、1日の抜け毛が200本になることもあります。
特に夏から秋にかけて抜け毛が増えるといわれていますが、詳しい原因は分かっていません。夏は紫外線が頭皮にダメージを与えるなど、抜け毛の原因となる条件がそろっています。
抜け毛の時期ではないのに200本抜けていたら要注意
健康な人でも1日100本程抜けるのでシャンプーのたびに一喜一憂する必要はありませんが、普段に比べて明らかに抜け毛が増えている場合は注意が必要です。抜け毛の時期ではないのに200本抜けていたら、何かしらの異常が生じているかもしれません。
1本1本数えることは難しいですが、シャンプーの際の抜け毛の本数をある程度把握しておくとよいでしょう。いつもの倍以上ある場合は脱毛症の可能性もあり、対策を考える必要があります。
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抜け毛は本数と共に抜けた毛自体にも注目
抜け毛の本数も気になりますが、それ以上に抜けた毛自体にも注目することが大切です。抜けた毛の特徴を観察することで、正常な抜け毛なのか異常な抜け毛なのかが分かるからです。
例えば抜けた毛の先端の形が尖っていたら注意が必要です。先端の形が尖っている場合、生えてきてから一度もハサミで切られていないと考えられます。つまり寿命で抜けたのではなく新しい髪の毛が何らかの異常で抜けてしまったと考えられるのです。
シャンプーをしている時にチェックをしよう
1日に100本程の髪の毛が抜けますが、すべてが同じタイミングで同時に抜けるわけではありません。朝起きた時の枕元や床に落ちた抜け毛もあります。抜けた毛のチェックをいつすればいいのか迷ってしまいます。
抜けた髪の毛のチェックはシャンプーをしている時がおすすめです。抜けた毛の大半がシャンプーの時に流れ落ちて排水溝にたまるのでチェックしやすいからです。他の家族がいる場合は排水溝を掃除してからシャンプーをします。
抜けた毛は自然脱毛?新生毛?
自然脱毛とは寿命によって抜け落ちた毛のことです。多くて1日に100本程抜けますが、抜けた毛のほとんどが自然脱毛によるのであれば問題はありません。問題なのは新生毛がたくさん抜けている場合です。
新生毛とは髪の毛が抜けた後に同じ毛穴から新しく生えてきた毛のことです。新生毛はデリケートなのでシャンプーの時などに数本抜けることはあります。しかし抜けた毛のほとんどが新生毛の場合は異常が生じているサインです。
-ヘアサイクルから考えよう
(出典:(3)毛と毛包の解剖・毛髪異常(AGA))
毛周期はヘアサイクルと呼ばれ、髪の毛が生えてから抜けるまでの期間を指します。ヘアサイクルには成長期、退行期、休止期があり、1サイクルの期間は男性の場合3~5年です。
髪の毛は1日で0.3~0.4mm程、1か月で1cm程伸びていきます。やがて現在のヘアスタイルに合った長さに成長し、散髪によって長さが調整されます。先端が尖っていて短い、やせ細っている抜け毛は、正常なヘアサイクルを全うしていないと考えられるでしょう。
チェックのポイント
抜け毛のチェックポイントですが、1回のシャンプーで70~80本以上あると危険信号です。1日100本程の抜け毛のうち、シャンプーの時に50~60%が抜けるといわれています。
抜けた毛全体に対する新生毛の割合もチェックのポイントにできます。抜けた毛10本につき1~2本程が新生毛であれば問題はありませんが、それ以上になると薄毛につながる可能性があり、注意が必要です。抜け毛の20%以上が新生毛だと危ないと覚えておきましょう。
抜け毛の原因とは
季節性の抜け毛
(出典:(4)髪の健康を考える〜美しい髪で過ごすには〜)
季節によって抜け毛が増えることがあります。秋に抜け毛が多いといわれていますが、それは夏場に頭皮が紫外線によるダメージを受けて、秋になってその影響が抜け毛として出てくるためです。夏場は汗や皮脂で頭皮の汚れがたまりやすい季節でもあります。
春にも抜け毛が増えることがありますが、気温の高低差や新生活など変化の大きな変化が、自律神経の乱れを引き起こすからです。また冬の乾燥や寒さが頭皮にダメージを与え、春先に抜け毛が増えることもあります。
季節の変わり目は気候の変化や生活習慣の変化により体調を崩しやすい時期です。頭皮環境に影響を与え季節性の抜け毛を引き起こすこともあるので、体調管理や頭皮ケアに努めましょう。
ストレスによる抜け毛
(出典:(5)疲労とストレス)
ストレスがたまると自律神経やホルモンバランスが崩れ、血行不良の原因にもなります。健康な髪の毛に欠かすことのできない栄養が頭皮に十分に届かなくなると、髪の毛が育たなくなりせっかく生えてきた新生毛も抜け落ちてしまいます。
適度な運動によりストレス発散させることや、寝る前にリラックスして良質な睡眠時間を取ることは、正常なヘアサイクルを保つために非常に大切です。ストレスのたまる生活を続けないように気をつけましょう。
間違ったヘアケアによる抜け毛
(出典:(6)洗浄料とその作用)
間違ったヘアケアも抜け毛の原因になります。例えばシャンプーの仕方を間違えて頭皮にダメージを与えているかもしれません。手のひらで十分に泡立てずに直接頭皮にシャンプーをつけることや、爪を立てて洗うことは頭皮を傷つけ、健康な髪の毛まで抜けてしまいます。
頭皮の汚れを落とすために洗浄力の高いシャンプーを選ぶと、頭皮に刺激が強すぎたり頭皮環境に必要な皮脂まで落としたりして、抜け毛のリスクを高めることになります。
AGAによる抜け毛
(出典:(7)毛と毛包の解剖・毛髪異常(AGA))
AGAとは「男性型脱毛症」のことで、成人男性の多くに見られる脱毛症の一種です。AGAは悪玉男性ホルモンのDHTがヘアサイクルの乱れを引き起こし、長くて太い髪の毛に成長しないようにします。
AGAの原因として遺伝が考えられますが、食生活や睡眠などの生活環境やストレスなども関係しているといわれています。AGAは進行性の疾患で、症状の改善には治療が必要です。
AGAは前頭部の生え際や頭頂部から薄毛が進行します。抜け毛が増えて前頭部や頭頂部の薄毛が気になる場合はAGAの可能性も考慮に入れて対策することが大切です。
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抜け毛の本数に関するQ&A
AGA治療を始めたら抜け毛が増えました、解決方法を教えてください
(出典:(8)男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン 2017 年版)
AGA治療を開始して10日~1か月程で抜け毛が増えることがありますが、これは初期脱毛という正常な反応なので心配する必要はありません。AGA治療薬の「ミノキシジル」がヘアサイクルを正常化させる際に初期脱毛が起こる場合があります。
初期脱毛は治療薬が効いている証拠でもあり、通常は1か月、長くても3か月程で症状は治まります。3か月以上続く場合は自己判断で治療を中断するのではなく、医療機関を受診しましょう。
シャンプーを減らしたら抜け毛は減りますか?
シャンプーの回数を減らしたところで抜け毛を減らす解決策にはなりません。シャンプーの時に抜け毛が多く感じるのは、寿命間近またはすでに抜けた毛が流れ落ちるからです。
シャンプーを控えることで頭皮の汚れがたまるためむしろ抜け毛を進行させてしまいます。髪の毛に優しい頭皮環境を保つために正しいヘアケアを心がけることが大切です。
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何度もシャンプーをするのは大丈夫ですか?
(出典:(9)洗浄料とその作用)
頭皮を清潔に保つために1日に何度もシャンプーをするのは逆効果です。シャンプーをすることで頭皮の汚れや余分な皮脂を洗い流せますが、過剰なシャンプーは必要な皮脂まで落としてしまい、頭皮を乾燥させてしまいます。
抜け毛の本数が気になり出したら病院へ
抜け毛の一般的な本数は1日100本程、抜け毛が多くなる季節でも200本程です。抜け毛の時期でもないのに200本を超えたら頭皮に何らかの異常があるかもしれません。
抜け毛の本数だけでなく抜けた毛自体に注目することも大切です。細くて短い、先の尖った抜け毛が多い場合は新生毛の抜け毛なので要注意です。
抜け毛の原因にはAGAもあり治療を必要とします。抜け毛の本数が気になりだしたらはやめに医療機関を受診してください。
文献
1).4).植木理恵:都民公開 講座アンチエイジング 順天堂醫事雑誌.2013:59 :P.327〜330
2).J. Son. Cosmet. Chem. Jpn. 特集総説48(4): 2014 / P.271~P.277
3).7).日本香粧品学会誌/42 巻 (2018) 2 号/ p. 93-97
5).バイオメカニズム学会誌/21 巻 (1997) 2 号/書誌
6).9).日本香粧品学会誌 Vol. 42, No. 4, pp. 270–279 (2018)
8).日皮会誌:127(13),2763-2777,2017(平成 29) P.2763~2777
監修者紹介
- 佐藤明男
- 東京メモリアルクリニック理事長
■ プロフィール
1957年新潟県生まれ。北里大学医学部卒業。
1998年、厚生省(当時) 高度先進医療推進事業でオックスフォード大学医学部客員研究員として英国に国費留学し、帰国後、東京メモリアルクリニック・平山副院長を経て院長に就任。医療法人TMC理事長を兼任。これまで10,000人を超えるAGA(男性型脱毛症)患者を治療してきた実績を持つ、頭髪治療の第一人者。
■論文・出版情報
2007年 『医療的育毛革命』
2009年 『なぜグリーン車にはハゲが多いのか』