監修者紹介
- 佐藤明男
- 東京メモリアルクリニック理事長
さとう美容クリニック院長, 北里大学医学部客員教授, 日本形成外科学会専攻医, 日本臨床毛髪学会理事, 日本先進医師会特定認定再生医療委員会委員長, SKIファーマ株式会社副社長
頭髪に関する内科治療と外科治療まで幅広く実践し、毛髪研究、教育も積極的に行っている。
「病院でAGAと診断され不安」「生え際が後退しAGAではないか」など、AGAに関して悩みを抱える人は少なくありません。
しかしAGAになる原因を知れば不安が解消されるほか、日常の中で進行をある程度抑制することが可能です。今回はAGAが引き起こされる原因や対処法について詳しく紹介します。
目次
AGAの原因として考えられること
(出典:(1)男女における脂肪酸および植物ステロールを標準化した栄養補助食品の脱毛および毛髪の健康に対する有効性)
AGAの原因には、男性ホルモンの影響と遺伝的要因が挙げられます。それぞれ詳しく見ていきましょう。
男性ホルモンの影響
AGAの原因となるのが、男性ホルモンによる影響です。
男性ホルモンのジヒドロテストステロンは、薄毛を引き起こす脱毛因子を生み出します。ホルモン分泌が続くと、毛乳頭細胞の分裂が抑えられ毛の成長が阻害されてしまいます。
ジヒドロテストステロンは、男性ホルモンのテストステロンと頭皮の還元酵素である5α-リダクターゼが結合されることで変換されるのが特徴です。変換されると毛の成長サイクルが短縮されて、髪が成長しにくくなります。
前頭部や頭頂部は特にホルモン作用が起こりやすい部位なため、男性ホルモンが活発な人は、徐々に髪のボリュームに統一感がなくなっていきます。
遺伝的要因
AGAには遺伝的要因もあります。男性ホルモンの分泌量は家族から遺伝されるケースがあるからです。
薄毛に関係する5α-リダクターゼを生成する体質や頭皮内部の酸素量は、遺伝によって受け継がれる可能性があります。
ただし可能性として考えられる話なので、必ずしもAGAの原因が遺伝に直結しているわけではありません。個人のホルモンや栄養、ストレスなどの要因が影響を与えているケースも考えられます。
薄毛を進行させる原因として考えられること
(出典:(2) 鉄ポルフィリン錯体誘導体による毛髪表面修復機構に関する研究)
AGAの進行を防ぐためには、薄毛を進行させる原因を知り対策をしていくことが大切です。薄毛を進行させる原因として考えられることは、以下が挙げられます。
・血行不良
・外的要因
・生活習慣の乱れ
・栄養不足
血行不良
血行不良が原因で薄毛を進行させる可能性があります。血行不良は加齢による毛細血管の減少や、生活習慣の乱れによって引き起こされるのが特徴です。
血行が正常であれば、頭皮は青白い色になっています。もし頭皮が真っ白なら乾燥状態、茶色であれば毛穴に老廃物が蓄積している可能性が高いです。頭皮が赤い場合は、血液が十分に頭皮に行き渡っていない可能性があります。
血行不良が続くと、髪を生成する毛母細胞に酸素や栄養が行き届きにくくなり、細胞の新陳代謝が低下して薄毛を引き起こしてしまいます。
外的要因
外的要因による頭皮環境の悪化も、薄毛の原因の一つとして挙げられます。
例えば香料の強いカラーやパーマを当てるなどです。使用する薬剤に刺激の強い成分が含まれている場合、頭皮環境が悪化することがあります。
そのほかの外的要因は紫外線です。長期間紫外線を浴びることで頭頂部がダメージを受けてしまいます。
外的要因による薄毛の場合は、ケアや予防をすることで防ぐことが可能です。
生活習慣の乱れ
生活習慣が乱れていると、薄毛になる可能性があります。悪習慣は髪の成長にさまざまな悪影響を与えるからです。
毛髪に影響のある生活習慣には、食事や睡眠、運動などがあります。生活習慣の乱れによる薄毛は後天的なものなので、見直すことで改善に繋がります。
栄養不足
髪の成長には栄養素が必要不可欠です。栄養が足りていなければ、薄毛を進行させる可能性があります。
髪の生成に必要な栄養は、主にタンパク質や亜鉛、ビタミンなどです。どれか一つでも不足していると、髪の成長が進みにくくなります。
しかし育毛に影響のあるものばかり食べれば良いということでもありません。栄養バランスの良い食事を心がけましょう。
なお糖質も髪の成長にはある程度必要です。過度のダイエットをしていると、栄養不足により薄毛を招く可能性があるので注意しましょう。
AGAを改善するための治療法
AGAを改善するためには、AGA治療を受けることが効果的です。AGA治療法には以下があります。
・薄毛の進行を抑える治療薬を使用
・発毛を促す治療薬を使用
・植毛
それぞれ詳しく解説していきます。
薄毛の進行を抑える治療薬を使用
(出典:(3)男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン 2017 年版)
薄毛の進行を抑える治療薬を使用すれば、AGAの改善につながります。主な治療薬は、内服薬のデュタステリドとフィナステリドの2種類です。いずれもAGA発症によるヘアサイクルの乱れを正常に戻します。
デュタステリドには、ジヒドロテストステロン生成の原因となる5aリダクターゼⅠ型とⅡ型を抑える働きがあります。一方フィナステリドは、Ⅱ型のみ阻害するのが特徴です。
一般的にデュタステリドのほうがフィナステリドに比べて高い効果が見られますが、体への負担が大きく肝機能性障害や、機能の低下などの副作用の頻度が高い傾向にあります。
治療薬を服用の際は事前に医師に相談しましょう。
発毛を促す治療薬を使用
(出典:(4)ミノキシジルの発毛作用について)
AGAの改善には、発毛を促す治療薬を使用する方法もあります。なかでも主流はミノキシジルの服用です。薄毛部分に直接塗布する外用薬と、内部から治療を促す内服薬の2タイプがあります。
外用薬は毛母細胞を活性化させ、ヘアサイクルの成長期を延ばす働きがあります。内服薬は外用薬よりも高い効果が期待できますが、国内では未承認の治療薬です。
そのため薄毛の進行を抑える治療薬と、発毛を促す外用薬を併用する治療方法が望ましいでしょう。
植毛
(出典:(5)男性型脱毛症診療ガイドライン(2010 年版))
植毛もAGAの改善に効果が期待できる方法です。植毛の種類は、自身の毛を頭皮に移植する自毛植毛と、人工毛を使用する人工毛植毛の2タイプです。
自毛植毛ではAGAの影響を受けていない部分の毛を採取し、AGA幹部に移植して成長を促します。植え込んで定着した後は、いったん抜け毛が発生するものの、数ヵ月で新しい毛が生え揃うようになります。
手術費用が高い上に、傷跡が残る可能性や合併症を引き起こすリスクがあるなどのデメリットはありますが、より確実な改善につながる治療方法です。
人工毛植毛は制限なく植えつけられるメリットがある反面、定期的に植毛しなければならず、場合によっては毛穴を傷つける可能性があります。
自毛植毛、人工毛植毛ともにメリットとデメリットがあるので、自身の頭皮の状態を知った上で医師と相談しながら治療を検討しましょう。
AGAの進行を抑制するために日常でできる対策
AGAの進行を防ぐには、5α-リダクターゼとジヒドロテストステロンの働きを抑制する必要があります。そのためには、頭皮の血行改善や成長因子の分泌促進がカギを握るので、生活習慣を見直し以下の3つを日々の生活に取り入れてみてください。
・食習慣を改善する
・質の高い睡眠をとる
・喫煙を控える
食習慣を改善する
偏った食事をしている人は、食習慣の改善から始めてみましょう。髪まで必要な栄養が行き渡りやすくなり、頭皮環境が良くなるからです。
AGAの進行抑制には、髪の成長に必要なタンパク質・亜鉛・ビタミンを意識して摂るようにしましょう。
逆に皮脂の分泌量が増えてしまうステーキやラーメンなど、高カロリーの食事は控えたほうが良いです。加えて発汗作用のある辛い食べ物も、皮脂の分泌を促進してしまうためおすすめできません。
また緑茶は頭皮環境に良い飲み物の一つです。緑茶に含まれるカテキンには抗酸化作用があるため、頭皮への紫外線ダメージを抑えられます。
質の高い睡眠をとる
質の高い睡眠をとって頭皮環境を整えましょう。睡眠中は髪の成長が促進されるので、できる限り質の高い睡眠が望ましいです。
就寝前にリラックスできる状態にしておくことで、副交感神経が優位に働き皮膚や頭部の血流が良くなります。心地良い眠りを誘うリラックスした音楽を聴く、頭皮マッサージなどを行うなどがおすすめです。
就寝前のスマホやパソコンの操作は、睡眠の質の低下に繋がるので控えるようにしましょう。
喫煙を控える
喫煙により血管が収縮するので、毛母細胞の活躍を阻害してしまいます。また髪の成長に必要なタンパク質を合成している肝臓にも負担がかかってしまい、髪にとって悪影響です。
いきなり禁煙するとかえってストレスになってしまうため、1日の本数を減らすなどできる範囲で始めていきましょう。
生活習慣を見直しAGAの進行を抑えよう
AGAの原因は男性ホルモンが影響しており、薄毛を進行させる原因には、外的・内的要因があります。いずれの場合も生活習慣の見直しや、正しいヘアケアを行うことがAGA進行の抑制の第一歩です。
AGAと診断された場合でも、まずは焦らず状況に応じて必要な対処をしていきましょう。
文献
1).Journal of Cosmetology & Trichology
2).新潟大学大学院自然科学研究科 材料生産システム専攻 機能材料科学コース 杉山 保行 2017年度 博士論文 P46
3).日皮会誌:127(13),2763-2777,2017(平成29) P.2763~2777
4).日本薬理学雑誌, 2002
5).日本皮膚科学会雑誌/120巻 (2010) 5 号