監修者紹介
- 佐藤明男
- 東京メモリアルクリニック理事長
さとう美容クリニック院長, 北里大学医学部客員教授, 日本形成外科学会専攻医, 日本臨床毛髪学会理事, 日本先進医師会特定認定再生医療委員会委員長, SKIファーマ株式会社副社長
頭髪に関する内科治療と外科治療まで幅広く実践し、毛髪研究、教育も積極的に行っている。
「タバコやお酒は薄毛につながる」という話を一度は聞いたことがあると思います。
しかしなぜ喫煙や飲酒が髪に悪影響を与えるのでしょうか?
またどのくらいまでなら髪の健康に悪影響を与えずに済むのでしょうか?
本記事では喫煙や飲酒が髪に与える影響や、髪の健康を損なわないための上手な付き合い方について解説します。
「喫煙や飲酒が薄毛につながっているのではないか?」と不安な方はぜひ参考にしてください。
目次
喫煙の髪への影響は?
(出典:(1)禁煙科学 vol.9(06),2015.06)
喫煙は髪に対して悪影響ばかり
JTが実施した「2018年全国たばこ喫煙者率調査」によると、成人男性の喫煙率は27.8%。
年々減少傾向にあるとは言え、喫煙習慣のある男性もけっして少なくはありません。
しかし喫煙は髪や頭皮に悪影響を与え、薄毛や抜け毛の原因になることがわかっています。
髪のことを考えて食事やヘアケアに気を遣っていても、喫煙によるマイナスがすべてを台無しにしてしまう可能性もあります。
喫煙習慣はそのくらい髪に悪影響を与えてしまうのです。
喫煙が髪に悪い理由
頭皮の血管を収縮させて血行が悪くなる
タバコに含まれるニコチンには、全身の血管を収縮させる作用があります。
頭皮のような末端は特に影響を受けやすいです。タバコを吸うと毛細血管が縮んで、頭皮の血流が非常に悪くなります。
頭皮の血行不良は毛根への栄養供給の不足を招きます。
髪の毛を作るための栄養素が足りなくなれば、髪は次第に痩せ細り、髪のボリュームダウンや抜け毛の増加につながります。
髪の健康に必要な栄養が消費されてしまう
(出典:(2)MSD マニュアル プロフェッショナル版 ビタミン)
喫煙によってビタミンCが大量に破壊されることはよく知られています。
ニコチンなどの有害物質が体内に取り込まれると、活性酸素が発生します。それらを無害化するためにビタミンCが消費されてしまうのです。
ビタミンCは髪の毛にとっても大切な栄養素です。コラーゲンの生成を促し、血管を丈夫にして頭皮の血流をよくしてくれます。
食事で摂ったビタミンCが喫煙によって浪費されてしまうのは、髪の健康を保つ上で大きなマイナスです。
活性酸素が細胞を老化させてしまう
(出典:(3)髪の健康を考える〜美しい髪で過ごすには〜)
喫煙によって体内に発生した活性酸素は、細胞を老化させてしまいます。
毛母細胞もその例外ではなく、活性酸素によって老化することで髪の毛を作る働きが衰えます。
喫煙習慣をつづけていると活性酸素によって毛母細胞の老化が早まり、薄毛や抜け毛に早くから悩まされることにもなりかねません。
一説には、タバコを1本吸うだけで約100兆個もの活性酸素が発生すると言われています。
喫煙習慣は髪にとっては百害あって一利なしです。できるだけ吸う本数を減らすか、禁煙に挑戦してみましょう。
自分一人でやめるのが難しそうな場合は、禁煙外来を利用するのも一つの手です。
飲酒は髪に悪いの?
アルコールと薄毛の関係性
(出典:(4)e-ヘルスネット 「アルコールの消化管への影響」)
飲酒によって体内に取り込まれたアルコールは肝臓で分解されます。
アルコールの分解過程では各種のアミノ酸を必要とするため、過度の飲酒はアミノ酸の不足を招きます。
アミノ酸は髪の毛の材料になる成分です。アルコールの分解には、髪の毛を作るために重要なアミノ酸である「シスチン」や「メチオニン」も消費されます。
毎日のようにアルコールを摂取していると、髪の材料となるアミノ酸が不足し、健康で丈夫な髪の毛が生えにくくなってしまいます。
禁酒の薄毛への効果
(出典:(5)中村博範 「マウスのタンパク質栄養状態と体毛タンパク質合成の 関係について」)
それでは禁酒をすれば薄毛に良い効果が出るのでしょうか?
過度の飲酒によってアミノ酸不足を招いていた場合は、禁酒することで前よりも丈夫な髪が生えやすくなる可能性はあります。
またお酒を飲む回数を減らせば、ついつい一緒に食べてしまう塩分の多いおつまみや、脂っこい料理を食べる頻度も少なくなるでしょう。
塩分や脂質の摂りすぎはどちらも血流を悪くして、薄毛や抜け毛の原因になります。
髪の健康を考ると、飲酒はできるだけ控えめにした方がプラスが大きいです。
ただし禁酒することで強いストレスがかかってしまう場合、かえってマイナスの影響が出る場合もあります。
禁酒によるストレスと薄毛の関係
お酒を飲むのが好きな人だと禁酒に強いストレスを感じるかもしれません。
しかし過度のストレスは髪が健康に育つ上で悪影響を及ぼします。
場合によっては「髪のために禁酒したのに、ストレスが溜まって逆効果になってしまった」となってしまう可能性もあります。
ストレスが薄毛に影響を与える理由
(出典:(6)髪の健康を考える〜美しい髪で過ごすには〜)
ストレスは薄毛や抜け毛を引き起こす原因の一つです。
強いストレスがかかると、自律神経が緊張状態に置かれることで血管が収縮し、頭皮の血行不良につながります。
すると髪の毛に必要な栄養素が毛根まで行き届かなくなって、薄毛や抜け毛を引き起こしてしまうのです。
また男性の薄毛には男性ホルモンが深く影響しているため、ストレスからくるホルモンバランスの乱れによって、薄毛が進行してしまう可能性も指摘されています。
ストレスによる食欲不振や睡眠不足も無視できません。
必要な栄養素が不足すれば丈夫な髪は育たなくなりますし、睡眠の質が悪ければ髪の成長に悪い影響を与えます。
髪の健康は体や心の健康と密接に関係しているため、心に強い負担がかかるほどの我慢はかえって逆効果になります。
髪のためにも飲酒は適量にしよう
お酒が好きという方は「適量」を守って飲むことが大切です。
飲酒にはマイナス面もありますが、ストレス解消や血行促進につながるプラスの面もあり、必ずしも悪者と決めつけることもできません。
禁酒して強いストレスを感じるよりは、適量を守ってお酒を楽しみ、ストレスの少ない生活を送った方が髪のためになるでしょう。
髪の健康に悪影響を与えない範囲で、お酒と上手に付き合うようにしてください。
飲酒の適量とは
どのくらいまでなら「適量」と呼べるのかは、その人のお酒に対する強さによっても変わってきます。
一つの目安として、厚生労働省がまとめている「健康日本21」の中では、「通常のアルコール代謝能を有する日本人においては『節度ある適度な飲酒』として、1日平均純アルコールで約20gである旨の知識を普及する」と書かれています。
純アルコール約20gというのは、アルコール度数5%のビールなら約500mL、アルコール度数15%の日本酒なら約1合 (180mL) 、アルコール度数12%のワインなら約グラス2杯分 (200mL) が目安です。
顔が紅潮しやすいなど、アルコール代謝能が低い人の場合は、これよりも控えめにすることが推奨されています。
慢性的な飲酒はNG
(出典:(7)男性型脱毛症のフィナステリド治療効果と アンドロゲン受容体遺伝子CAGリピート多型との相関性)
定期的に休肝日を設けることも必要です。
たとえ適量であっても、慢性的に飲酒をしていると次第に皮脂腺の活動が活発になって、「5αリダクターゼ」と呼ばれる酵素が増えやすくなります。
5αリダクターゼは男性型脱毛症 (AGA) の原因物質で、抜け毛を促進する作用があります。
慢性的な飲酒は、薄毛や抜け毛の症状を悪化させてしまうことにつながるのです。
髪の健康のためにも、最低でも週に1~2日は休肝日を設けましょう。
毎日飲み続けていると肝臓に負担がかかり、肝機能も低下してしまいます。内臓の働きが低下すれば、髪の健康にもマイナスです。
またお酒は意外と高カロリーな飲み物です。カロリーを摂りすぎると皮脂の分泌が増えて、頭皮環境の悪化にもつながります。
まとめ
喫煙や飲酒が髪の健康にどのように影響してくるのかを解説しました。
タバコを吸っている人や酒飲みの人が必ずしも薄毛になるとは限りません。
しかし喫煙や過度の飲酒が髪の健康によくない影響を与えることもまた事実です。
健康な髪の毛を育てるためには、喫煙はできるだけ控えめにし、飲酒も適量を守って楽しむことが大切になります。
喫煙や飲酒の影響をしっかりと自覚した上で、賢い付き合い方を実践するようにしましょう。
文献
1.)禁煙科学 9巻(2015)-06 P.1~P.14
2.)MSD マニュアル プロフェッショナル版 / 09. 栄養障害 > ビタミン欠乏症,依存症,および中毒 > ビタミンの概要
3).6).植木理恵:都民公開 講座アンチエイジング 順天堂醫事雑誌.2013:59 :P. 327〜330
4).e-ヘルスネット > 飲酒 > アルコールによる健康障害 > アルコールの消化管への影響
5).川崎医療福祉学会誌 Vol. 22 No. 2 2013 200 − 207
7).Skin Surgery:17(2);P.80-86,2008