監修者紹介
- 佐藤明男
- 東京メモリアルクリニック理事長
さとう美容クリニック院長, 北里大学医学部客員教授, 日本形成外科学会専攻医, 日本臨床毛髪学会理事, 日本先進医師会特定認定再生医療委員会委員長, SKIファーマ株式会社副社長
頭髪に関する内科治療と外科治療まで幅広く実践し、毛髪研究、教育も積極的に行っている。
お風呂でシャンプーをしているときに、髪の毛がたくさん抜けて不安になった経験がある人は多いのではないでしょうか。
抜け毛が増える原因はさまざまですが、原因を探り適切に対策を講じることで改善・予防できます。
そこで今回は抜け毛はどのくらいの量なら大丈夫なのか、お風呂で髪の毛が多く抜ける場合に考えられる原因、抜け毛を防ぐ正しいシャンプーの仕方を解説します。
お風呂での抜け毛が気になる人は、ぜひ参考にしてください。
目次
お風呂で抜ける髪の毛の本数の目安は?
(出典:(1)男性型脱毛症治療薬の研究動向)
髪の毛は成長期・退行期・休止期のヘアサイクルによって生え変わるため、毎日髪の毛が抜ける「自然脱毛」は当たり前の現象です。
休止期の髪の毛は軽い力でも簡単に抜け落ちてしまうため、とくにシャンプーをしているときに抜け毛が多く発生します。1日50〜100本程度の抜け毛なら心配ありません。
しかし、一度のシャンプーで排水溝に抜け毛がびっしりと溜まってしまうような場合は、髪の毛があまり成長しないうちに抜け落ちている異常な抜け毛の可能性があります。
要注意な抜け毛の状態とは
自然脱毛と要注意な抜け毛は、抜け毛の毛根や形、長さやハリをチェックすることで見分けられます。
毛根が黒い・形がいびつ
(出典:(2)男性型脱毛症治療薬の研究動向,(3)ヘアケアの科学)
自然な抜け毛の場合は、毛根が白く丸く膨らんだ形をしています。
対して、異常な抜け毛は毛根が黒または白濁色で、毛根そのものが小さい、またはいびつな形をしています。
また、毛根に汚れや老廃物がついている場合も要注意です。皮脂が過剰分泌されている可能性が高く、過剰な皮脂が毛穴が詰まることで髪の成長に悪影響を及ぼす場合があるからです。
ただし、毛根に白っぽい半透明なものがついている場合は心配ありません。これは皮脂ではなく毛根鞘 (もうこんしょう) と呼ばれる毛根と頭皮をつなげる組織です。毛根鞘は、ヘアサイクルの中で自然に抜け落ちた髪の毛についています。
長さが短くコシがない
(出典:(4)男性型脱毛症と育毛有効成分)
正常なヘアサイクルで抜け落ちた髪の毛は、ある程度の長さまで成長しており、太くてコシがあります。
対して、なんらかの異常で成長の途中で抜けてしまった髪の毛は、1本1本の毛が短くてコシのない弱々しい状態です。
つまり、理想的な長さや太さを保てない髪は、成長途中の段階で抜け落ちてしまっていると考えられるでしょう。これは、ヘアサイクルが異常な状態になっているサインともいえます。
髪の毛の成長期は2〜6年ですが、ヘアサイクルに異常がある場合は、1年程度で抜け落ちてしまうこともあります。
お風呂で髪の毛が多く抜ける場合に考えられる原因
お風呂で髪の毛が正常な範囲を超えて抜けてしまう原因をいくつか紹介します。
生活習慣の乱れやストレス
(出典:(5)e-ヘルスネット たんぱく質,(6)頭皮トラブルが毛髪物性に及ぼす影響と植物由来エキスによるその予防,(7)疲労とストレス)
生活習慣が乱れていたり過度のストレスを抱えていたりすると、ホルモンバランスや自律神経が乱れ、髪の毛の成長が妨げられてしまいます。
とくに、栄養バランスが偏った食生活で、タンパク質が不足している人は注意が必要です。タンパク質は髪の毛を構成する主要な成分のひとつ。不足すると髪の毛にハリやコシがない弱々しい状態になり、抜け毛が生じやすくなります。
またストレスが溜まっていると、自律神経が乱れて頭皮の血行が悪くなってしまいます。頭皮が血行不良になると栄養が届きにくくなり、髪の毛が十分に成長しません。
健康な髪の毛を保つためにも、ストレスはこまめに発散するようにしましょう。加えて十分な睡眠や適度な運動、バランスのよい食生活を心がけることも大切です。
紫外線によるダメージ
(出典:(8)日焼け止めの科学)
紫外線を多く浴びると頭皮が乾燥したり、硬くなったりしてしまうため注意が必要です。頭皮環境が悪化すると髪の毛の成長に影響を及ぼし、新しく髪の毛が生えても細くてツヤのない弱々しい状態になってしまいます。
さらに紫外線によって髪の毛の表面のキューティクルも損傷し、内部にまでダメージが及びます。
紫外線によるダメージを防ぐために、外出時は帽子を被ったり日焼け止めスプレーを使用したりするなどの対策をしましょう。
脱毛症の発症
(出典:(9)毛と毛包の解剖・毛髪異常(AGA))
お風呂でシャンプーをしているとき、抜け毛の量が以前より明らかに多くなっていると感じる場合は、AGA (男性型脱毛症) を発症している可能性があります。
AGAは男性ホルモンの影響によって引き起こる脱毛症で、前髪の生え際や頭頂部の髪の毛が薄くなっていくのが特徴です。発症要因はさまざまですが、遺伝的要素が強いと考えられています。
抜け毛を防ぐ正しいシャンプーの仕方
シャンプーすることは健康的な髪の毛を保つために大切ですが、誤った方法ではかえって髪の毛が抜けやすくなってしまいます。
ここでは抜け毛を防ぐ正しいシャンプーの仕方を紹介します。
予洗いを十分にする
シャンプーをする前に、まずお湯で頭皮と髪の毛全体をよく洗い流しましょう。お湯だけの予洗いで、汚れの大半を落とせます。
予洗いのコツは、髪の毛全体にお湯をよくなじませて、やさしく手ぐしでとかすイメージで汚れを洗い流すこと。シャワーは手持ちにして多方向からお湯をかけ、頭皮全体に水分が行き渡るようにしましょう。
40度以上のお湯では頭皮に負担がかかるため、ぬるめのお湯で1分以上かけてじっくりと洗い流してください。
予洗いで髪の毛の表面についたほこりやスタイリング剤を落とすことで、その後のシャンプーの泡立ちもよくなります。
シャンプーをよく泡立ててやさしく洗う
シャンプーはそのまま髪の毛につけず、手でよく泡立ててから髪に乗せてください。泡が髪の毛や頭皮に均等に行き渡り、しっかりと汚れを落とせます。
丁寧に予洗いをしていれば、シャンプーは少量で済みます。必要以上の量を使うとすすぎ残しにつながるため気をつけましょう。
爪を立てたり強い力でゴシゴシ洗ったりすると頭皮を傷つけてしまうため、指の腹でやさしく洗うことが大切です。髪の毛だけではなく頭皮も十分に洗うイメージで丁寧に洗ってください。耳の後ろや生え際など洗い忘れのないようにしましょう。
十分にすすぐ
予洗いのときと同様に、40度未満のぬるめのお湯ですすぎます。泡や汚れが残らないように、全体をしっかりと洗い流してください。
すすぎが十分でないところは、触るとぬめりが残っています。とくに耳の後ろや生え際などは、洗い忘れが多いだけでなくすすぎ残しも多い場所です。意識的にぬめりがなくなるまでよく流すことが大切です。
ドライヤーですぐに乾かす
(出典:(10)入院患者の頭髪および頭皮のブドウ球菌の汚染状況と洗髪による汚染除去の効果)
髪の毛を濡れたままの状態で放置すると、頭皮が蒸れて通気性が悪くなり雑菌が繁殖しやすくなります。
頭皮に雑菌が繁殖すると臭いやかゆみ、フケなどのトラブルが起こりやすくなります。シャンプーをしたあとは濡れたまま放置せず、なるべく早く乾かすようにしましょう。
お風呂から出たらすぐに、まずは髪の毛をタオルでやさしく挟むようにして水分を拭き取ってください。ドライヤーの前に丁寧に水分を取っておくことでドライヤーの時間が短縮でき、髪の毛への負担軽減につながります。
ドライヤーは頭から10cm~20 cm程度離し、ドライヤーの熱で頭皮や髪の毛がダメージを受けないようにしましょう。
抜け毛の状態をチェックして対策をしよう!
ヘアサイクルの休止期を迎えた髪の毛は抜けやすいため、お風呂でシャンプーをしているときに抜け毛が気になることがあるかもしれません。しかし、一定のサイクルで古い毛が抜けるのは普通のことです。毎日抜け毛が生じるからといって神経質になることはありません。
ただし、明らかに以前と比べて髪の毛がたくさん抜けていると感じたら、抜け毛の毛根の状態や長さ、太さをチェックしてみましょう。
頭皮や髪の毛の健康のために、今回紹介した抜け毛の原因に当てはまるものがあれば改善し、髪の毛にやさしい正しいシャンプーの仕方をぜひ実践してみてください。
文献
1).2).日本薬理学雑誌/133 巻 (2009) 2 号/ p. 73-77
3).講座(シリーズ) “変わる”生活と消費科学 9
4).油化学/44 巻 (1995) 4 号
5).e-ヘルスネット 厚生労働省
6).日本化粧品技術者会誌/52 巻 (2018) 1 号/P.16-23
7).バイオメカニズム学会誌 VoL 21, No 2 (1997)
8).表面科学/15 巻 (1994) 7 号/p. 473-478
9).日本香粧品学会誌/42 巻 (2018) 2 号/ p. 93-97
10).愛知県立大学看護学部紀要 Vol. 21, 21−29, 2015
監修者紹介
- 佐藤明男
- 東京メモリアルクリニック理事長
■ プロフィール
1957年新潟県生まれ。北里大学医学部卒業。
1998年、厚生省(当時) 高度先進医療推進事業でオックスフォード大学医学部客員研究員として英国に国費留学し、帰国後、東京メモリアルクリニック・平山副院長を経て院長に就任。医療法人TMC理事長を兼任。これまで10,000人を超えるAGA(男性型脱毛症)患者を治療してきた実績を持つ、頭髪治療の第一人者。
■論文・出版情報
2007年 『医療的育毛革命』
2009年 『なぜグリーン車にはハゲが多いのか』