監修者紹介
- 佐藤明男
- 東京メモリアルクリニック理事長
さとう美容クリニック院長, 北里大学医学部客員教授, 日本形成外科学会専攻医, 日本臨床毛髪学会理事, 日本先進医師会特定認定再生医療委員会委員長, SKIファーマ株式会社副社長
頭髪に関する内科治療と外科治療まで幅広く実践し、毛髪研究、教育も積極的に行っている。
「最近、全体的に頭皮が目立ってきた」など、気づかないうちに薄毛が進行していた場合は、びまん性脱毛症を発症している可能性があります。
びまん性脱毛症は、女性に起こりやすいタイプの薄毛症状です。しかし実は男性にも起こります。
今回はびまん性脱毛症の特徴や男性におけるびまん性脱毛症の原因、対策・予防方法、治療方法を紹介します。
びまん性脱毛症について詳しく知りたい人は、ぜひ最後まで読んでみてください。
目次
びまん性脱毛症とは
びまん性脱毛症とは、全体的に髪の毛の密度が低くなる脱毛症です。びまんとは、一面に広がり満ちることを意味します。
びまん性脱毛症はゆっくりと進行するため、気づいたら薄毛になっていたと認識するケースが多いです。女性の発症が多いですが、男性でも発症する可能性は十分にあります。
AGA (男性型脱毛症) のように、前頭部や頭頂部など特定の部分から薄毛になるわけではありません。また、男性がびまん性脱毛症を発症する場合は、AGAも併発している場合が多いです。
びまん性脱毛症は40代以降に発症することが多いですが、20代で発症することもあります。
男性におけるびまん性脱毛症の原因
男性におけるびまん性脱毛症の原因を紹介します。
加齢
(出典:(1)老化による力学特性変化を考慮した皮膚のしわ特性解析)
男性におけるびまん性脱毛症の原因のひとつは加齢です。
年齢を重ねると、肌と同じように頭皮も老化し硬くなります。頭皮が硬くなると血流が悪くなるので、髪の毛に必要な栄養が頭皮に行き渡りにくくなります。
その結果、乱れてしまうのがヘアサイクルです。ヘアサイクルが乱れると、抜け毛が増えたり髪の毛が細くなったりします。
ヘアサイクルとは、一定の周期をもって髪の毛が成長と脱毛を繰り返すことです。ヘアサイクルは成長期・退行期・休止期の3つに分かれていて、通常2~6年の周期で繰り返しています。
生活習慣の乱れ
(出典:(2)第3章 主な医薬品とその作用)
食生活や睡眠など生活習慣の乱れも、びまん性脱毛症の原因のひとつです。偏った食生活を送っていると、髪の毛に必要な栄養が不足します。
また皮脂の過剰分泌など頭皮トラブルも起こりやすくなり、ヘアサイクルが乱れて結果的に抜け毛が増えやすくなります。
とくに脂質が多い食事や高カロリーの食事、過度な食事制限、過度な飲酒などをしている人は注意してください。
さらに睡眠不足によっても薄毛や抜け毛は引き起こされます。睡眠時に多く分泌される成長ホルモンには、髪の毛を成長させる働きがあるからです。
頭皮への負担
間違ったヘアケアなどで頭皮に負担がかかることで、びまん性脱毛症になる場合があります。
たとえばシャンプーが頭皮に合っていなかったり、過度にパーマを繰り返したりすると、頭皮に負担がかかって頭皮トラブルが起こり、抜け毛に発展する可能性があります。
すぐにはじめられるびまん性脱毛症の対策・予防方法
男性におけるびまん性脱毛症の対策・予防方法を5つ紹介します。どれもすぐにはじめられることなので、できることから実践してみてください。
バランスよく栄養を摂る
(出典:(3)看護学生の食生活改善に向けた介入の効果)
(出典:(4)頭髪外来における内服・外用による男女の発毛治療)
びまん性脱毛症を対策・予防するには、バランスよく栄養を摂ることが重要です。バランスよく栄養を摂取すると、血液の運搬により頭皮や髪の毛に栄養が行き渡りやすくなります。
とくに髪の毛の成長に大きく関わっているタンパク質や亜鉛、ビタミンを意識して摂取するようにしましょう。
タンパク質は髪の毛を構成するケラチンと同じ栄養素で、亜鉛はケラチンの合成を助ける働きがある栄養素です。ビタミンは酵素の働きをサポートする補酵素として、タンパク質の代謝を助ける役割をしています。
質の高い睡眠をとる
(出典:(5)男子大学生における夜間睡眠の乱れと自律神経系活動の関係)
(出典:(6)清酒酵母による睡眠の質改善作用と機能性表示食品への応用)
質の高い睡眠をとることも、びまん性脱毛症を改善・予防する上で欠かせない要素です。
睡眠時に副交感神経の働きによって多く分泌される成長ホルモンには、髪の毛を構成するケラチン (タンパク質) の合成を促す作用があります。
成長ホルモンには毛母細胞などの細胞分裂を促進させる働きもあるので、質の高い睡眠をしっかりとることは髪の毛の成長につながるでしょう。
睡眠時間にバラつきがあると副交感神経の活動効率が低くなり、成長ホルモンの分泌量が減ります。そのため毎日決まった時刻に寝る・起きることが重要です。
適度に運動する
びまん性脱毛症を対策・予防するために、日ごろから適度に運動しましょう。
運動して体を動かすと筋肉が収縮と弛緩を繰り返し、ポンプのように血液が押し上げられます。その結果、血流がよくなり、髪の毛に必要な栄養が頭皮に行き渡りやすくなります。
ウォーキングやサイクリング、軽めの筋トレなど無理なくできる運動からはじめて、血流を悪化させないようにしましょう。
正しくシャンプーをする
(出典:(7)低刺激性プロトタイプシャンプーの頭部皮膚疾患患者における使用評価—頭部皮膚疾患患者を対象とした臨床試験—)
正しい方法でシャンプーをすることは、びまん性脱毛症を改善・予防する上で重要です。
過度なシャンプーは頭皮にある皮脂を過剰に取り除いてしまったり、頭皮に必要な成分まで洗い流してしまったりして、皮膚のバリア機能を低下させてしまいます。
皮膚のバリア機能が低下すると頭皮トラブルが起こりやすくなり、ヘアサイクルが乱れ薄毛や抜け毛をまねきます。
そのため、1日に何回もシャンプーをしたり、頭皮をゴシゴシと強い力で洗ったりするのは控え、頭皮に負担がかからないように指の腹を使ってやさしくシャンプーをしましょう。
頭皮マッサージをする
(出典:(8)地肌マッサージの頭皮への作用)
頭皮マッサージをすることも、びまん性脱毛症の対策・予防におすすめの方法です。マッサージによって頭皮の血流がよくなり、髪の毛に必要な栄養が頭皮に行き渡りやすくなります。
頭皮を傷つけないように、指の腹でゆっくり圧を加えるように頭皮全体をマッサージしましょう。時間に余裕が無いときは、シャンプーと一緒に行うと効率的です。
びまん性脱毛症の治療方法
びまん性脱毛症のおもな治療方法をふたつ紹介します。
ミノキシジル外用薬の塗布
(出典:(9)ミノキシジルの発毛作用について)
びまん性脱毛症の治療方法として一般的なのは、ミノキシジル外用薬を用いた治療です。
ミノキシジルには発毛を促す効果があるので、びまん性脱毛症だけでなくAGAの治療薬としても使われています。ミノキシジルには、毛包に直接作用して細胞の増殖やタンパク質の合成を促したり毛組織の血流を促したりすることで、ヘアサイクルの成長期の期間を延長させる働きがあります。
日本では、頭皮に直接塗る外用薬のみが厚生労働省から発毛剤(第一類医薬品)として認可されており、ミノキシジルタブレットなどの内服薬は認可されていません。
びまん性脱毛症は原因ごとの適切な対処で改善・予防しよう
びまん性脱毛症は、女性だけでなく男性にも起こる薄毛の症状です。男性の場合はAGAも併発しているケースも多く、びまん性脱毛症に気づかないことも少なくありません。
原因が生活習慣の乱れや頭皮への負担なら、栄養バランスのとれた食事や質の高い睡眠、正しいヘアケアでびまん性脱毛症を改善・予防できます。
びまん性脱毛症と思われる症状が出たときには、まずは普段の生活習慣を見なおしてみてください。改善しない場合は、医師に相談するとよいでしょう。
文献
1).日本シミュレーション学会論文誌/1 巻 (2009) 4 号 66-73
2).厚生労働省 試験問題の作成に関する手引き(平成19年8月)
3).石川看護雑誌 = Ishikawa Journal of Nursing 9 53-59, 2012-03
4).WAARM Journal, 2018; 1: 40–42
5).大正大學研究紀要 第106輯
6).オレオサイエンス 第19巻 第7号(2019)
7).日本香粧品学会誌 Vol. 41, No. 1, pp. 15–22 (2017)
8).日本化粧品技術者会誌/48 巻 (2014) 2 号
9).日本薬理学雑誌/119 巻 (2002) 3 号
監修者紹介
- 佐藤明男
- 東京メモリアルクリニック理事長
■ プロフィール
1957年新潟県生まれ。北里大学医学部卒業。
1998年、厚生省(当時) 高度先進医療推進事業でオックスフォード大学医学部客員研究員として英国に国費留学し、帰国後、東京メモリアルクリニック・平山副院長を経て院長に就任。医療法人TMC理事長を兼任。これまで10,000人を超えるAGA(男性型脱毛症)患者を治療してきた実績を持つ、頭髪治療の第一人者。
■論文・出版情報
2007年 『医療的育毛革命』
2009年 『なぜグリーン車にはハゲが多いのか』