監修者紹介
- 佐藤明男
- 東京メモリアルクリニック理事長
さとう美容クリニック院長, 北里大学医学部客員教授, 日本形成外科学会専攻医, 日本臨床毛髪学会理事, 日本先進医師会特定認定再生医療委員会委員長, SKIファーマ株式会社副社長
頭髪に関する内科治療と外科治療まで幅広く実践し、毛髪研究、教育も積極的に行っている。
「頭皮に湿疹ができてしまった」「顔にできたアトピーが目立って気になる」といった悩みはありませんか。
頭皮や顔にできる湿疹は原因によって3種類に分けられ、それぞれ対策が異なります。
本記事では頭皮と顔に湿疹が出る場合の症状や種類を紹介し、原因・予防法・対処法について解説します。
頭皮や顔の湿疹・アトピーが気になっている方は、ぜひ参考にしてください。
目次
頭皮や顔に出る湿疹の種類と症状
頭皮の湿疹と一口に言っても、その症状や種類はさまざまです。
以下では頭皮に湿疹が出る場合の症状と種類について解説します。
1:接触皮膚炎
(出典:(1)接触皮膚炎診療ガイドライン 2020)
接触皮膚炎とは化学物質など外部からの刺激物質が皮膚に接触することで発症する湿疹です。
アレルギー反応の一種であり、かゆみやヒリヒリ感をともないます。
頭皮以外の部位においても発症する可能性があります。
2:成人期の脂漏性皮膚炎 (脂漏性湿疹)
(出典:(2)脂漏性皮膚炎 -臨床症状と各種外用剤の治療効果-)
(出典:(3)Malasseziaと脂漏性皮膚炎・アトピー性皮膚炎)
脂漏性皮膚炎とは皮脂が多い頭皮や顔を中心に発生する皮膚炎の一種です。頭皮の皮が剥けてフケが発生したり、かゆみをともなう炎症があらわれたりします。
また発症する時期によって、乳児型と成人型の2つのタイプに分けられます。
乳児型は症状が自然に消失しますが、成人型は思春期以降に発生し症状は慢性的です。
頭皮湿疹について詳しく知りたい方は、以下の記事もお読みください。
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3:アトピー性皮膚炎
(出典:(4)アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2021)
アトピー性皮膚炎とは改善と悪化を繰り返す慢性的な疾患であり、代表的な症状は、炎症やかゆみです。
アトピー性皮膚炎は頭皮だけではなく全身に炎症が発症する可能性があります。
また家族歴があったりIgE抗体を産生しやすい体質を持っていたりすると、アトピー性皮膚炎のリスクが高まります。
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頭皮や顔に湿疹ができる原因は?
頭皮に湿疹ができる原因は、疾患の種類によってさまざまです。
以下では頭皮に湿疹ができる原因を、疾患の種類別に解説します。
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接触皮膚炎の原因
(出典:(5)接触皮膚炎診療ガイドライン 2020)
接触皮膚炎の原因物質としては、硫酸ニッケル、金チオ硫酸ナトリウム、ウルシオール、パラフェニレンジアミン、塩化コバルトの5種類が、国内での上位を占めています。
これらの原因物質を含む染毛剤やシャンプーが頭皮に接触することで、接触皮膚炎を引き起こします。
成人期の脂漏性皮膚炎の原因
(出典:(6)脂漏性皮膚炎 -臨床症状と各種外用剤の治療効果-)
(出典:(7)Malassezia関連疾患)
成人期の脂漏性皮膚炎の原因は、頭皮の過剰な皮脂の分泌による原因菌の繁殖です。
原因菌の種類はさまざまですが、代表的な原因菌としてはマラセチア菌が挙げられます。マラセチア菌は健常な人の皮膚にも存在するカビの一種です。
アトピー性皮膚炎の原因
(出典:(8)アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2021)
アトピー性皮膚炎の原因は、さまざまな刺激物への暴露です。
洗髪時の頭皮への刺激をはじめとした物理的な要因に加え、温度や湿度などの環境要因もアトピー性皮膚炎を引き起こすリスクと考えられます。
食生活の乱れや過度な飲酒、精神的なストレスも、アトピー性皮膚炎に影響を及ぼす一因です。
また頭皮の乾燥 (ドライスキン) により感覚過敏が生じやすくなり、かゆみを誘発します。皮膚を掻いてしまうと、さらにアトピー性皮膚炎が悪化する悪循環につながります。
頭皮や顔の湿疹を予防する方法はある?
症状の種類によって原因はさまざまであるため、予防の方法も一部異なります。
ここからは頭皮の湿疹を予防する方法について、症状の種類別に解説します。
接触皮膚炎の予防法
(出典:(9)接触皮膚炎診療ガイドライン 2020)
(出典:(10)皮膚のパッチテスト)
接触皮膚炎の予防には、原因物質との接触を避けるのが有効です。染毛剤やシャンプーを使用した際は、念入りに洗い流すことを心掛けましょう。
また商品が合うか心配な場合、パッチテストを行うことで原因物質を避けられます。パッチテストは特定の化学物質との反応性を評価することで、接触皮膚炎の可能性を判定する手法です。
パッチテストにより接触皮膚炎の原因物質を特定できれば、原因物質との接触を自ら避けられるでしょう。
成人期の脂漏性皮膚炎の予防法
(出典:(11)脂漏性皮膚炎 -臨床症状と各種外用剤の治療効果-)
成人期の脂漏性皮膚炎の予防には、頭皮の過剰な皮脂を取り除くことが有効です。
洗髪の際には念入りに頭皮をマッサージするよう洗い、シャンプーの洗い残しが起きないよう日頃から注意しましょう。
アトピー性皮膚炎の予防法
(出典:(12)アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2021)
アトピー性皮膚炎の予防には、原因となる刺激物を避けることが重要です。
運動後や辛い物を食べた際の発汗が刺激となってアトピー性皮膚炎を誘発するケースもあるため、汗をかいたら早めに洗髪しましょう。その際には頭皮に刺激が加わらないよう優しく洗髪してください。
また心身ともに快適な環境を保つことも予防につながります。部屋の温度や湿度を適正に保つ、肌への刺激が少ない衣類を身につけるなど、日常生活で実践できることからはじめてみましょう。
趣味の時間を確保しリフレッシュして、精神的なストレスを溜め込まないようにすることも有効です。
頭皮や顔にできた湿疹の対処法・治療方法
頭皮に湿疹ができた際は、症状の種類によって適切な対処を行うことが重要です。
頭皮に湿疹ができたときの対処法について解説していきます。
接触皮膚炎の対処法・治療方法
(出典:(13)接触皮膚炎診療ガイドライン 2020)
接触皮膚炎の対処には、原因物質を回避したうえでステロイド薬が用いられます。
ステロイド外用薬のみで効果が得られない場合、ステロイド内服薬を用いるケースもあります。
一方でステロイド外用薬自体が接触皮膚炎を引き起こす可能性もあるため、用法用量については必ず医師に相談しましょう。
成人期の脂漏性皮膚炎の対処法・治療方法
(出典:(14)脂漏性皮膚炎 -臨床症状と各種外用剤の治療効果-)
成人期の脂漏性皮膚炎の対処法としては、予防法と同様、原因となる過剰な皮脂を取り除くことが有効です。
原因となるカビの繁殖を抑える効果が期待できるシャンプーを用いるのもおすすめです。
症状が緩和しない場合、医療機関にてイミダゾール系抗真菌剤が処方されます。イミダゾール系抗真菌剤の服用により原因菌の菌数が減少することがわかっています。
アトピー性皮膚炎の対処法・治療方法
(出典:(15)アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2021)
アトピー性皮膚炎の対処には、ステロイド外用薬などの炎症を抑える薬剤が用いられます。
かゆみにより患部を掻いてしまう恐れがある場合、かゆみを抑える抗ヒスタミン薬も処方されます。
また日頃から保湿剤を用いて肌の乾燥を防ぐことも重要です。乾燥肌 (ドライスキン) が解消され感覚過敏を抑えられれば、かゆみの抑制につながります。
その他食事や睡眠など生活習慣を見なおすなどにより発症につながる刺激を減らすことで、症状の緩和が期待できます。
子ども・赤ちゃんの頭皮や顔にできる湿疹の種類は?
子どもや赤ちゃんの頭皮と顔にできる湿疹には、大きく分けて次の3種類があります。
- 1:口舐め病 (舌なめずり皮膚炎)
- 2:乳児期の脂漏性皮膚炎
- 3:アトピー性皮膚炎 (乳幼児期・小児期)
それぞれの症状は次の通りです。
1:口舐め病 (舌なめずり皮膚炎)
(出典:(16)アトピー性皮膚炎はアレルギー疾患か)
(出典:(17)小児の四季の肌トラブル調査)
(出典:(18)アトピー性皮膚炎と皮膚のバリア機能)
子どもや赤ちゃんは口舐め病 (舌なめずり皮膚炎) が原因で、口周りに湿疹ができる場合があります。
乳幼児の頬は成人に比べ、角質の水分量が少なく乾燥しやすいため、皮膚のバリア機能が弱まりやすいのが特徴です。そのためよだれ・食べ物の付着やそれらのふき取り行為によって物理的刺激の影響を受けやすく、皮膚炎の発症につながります。
2:乳児期の脂漏性皮膚炎
(出典:(19)世界初・乳児脂漏性皮膚炎の発症と、出生時の角層脂質や初乳成分との関連が明らかに ~生後早期に角層脂質のバランス補整で、発症を抑制できる可能性を示唆~)
脂漏性皮膚炎も子どもの頭皮や顔にできる湿疹の原因です。
脂漏性皮膚炎は乳児期に発症しやすく、乳児の1/3程度に発症が認められるといわれています。この炎症性疾患は生後1ヶ月頃を境に、頭部や顔面をはじめとした皮脂分泌が活発な部位に発症するのが特徴です。
乳児期の脂漏性皮膚炎の原因は、一般的にはマラセチア菌への感染や、母体からの性ホルモンによる過剰な脂質分泌であるとされています。しかし近年の研究報告によると、皮膚バリアや母乳の影響であることがわかってきました。
具体的には出生時における角質層内のセラミドとコレステロール量の減少や、初乳に含まれるTGF-β濃度が原因とされます。TGF-βは細胞の増殖や分化をコントロールする多機能性サイトカインの一種で、アレルギー症状を抑える可能性が示唆されています。
3:アトピー性皮膚炎 (乳幼児期・小児期)
(出典:(20)アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2021)
子どもの湿疹はアトピー性皮膚炎によっても起こります。
乳児期のアトピーは頬や額、頭にできやすいのが特徴です。患部が乾燥した後に赤みを帯びていき、徐々に症状が進行していきます。かゆみが出はじめると患部をかき壊してしまい、皮膚が傷付くことも少なくありません。
乳児期のアトピー性湿疹は耳や口、顎など顔面全体に現れやすいですが、幼児期になるとともに首やわきの下、肘や膝の内側へと移行していくのが一般的です。
アトピーは年齢とともに症状が治まることが多いですが、大人になるまで続く場合もあります。症状が続くケースでは、乳幼児期から成人期へと進むにしたがって重症化しやすく、40代以降は反対に重症化率が下がる傾向が見られます。
頭皮の湿疹に関するよくある質問
脂漏性皮膚炎の改善に有効なシャンプーはありますか?
(出典:(21)脂漏性皮膚炎 -臨床症状と各種外用剤の治療効果-)
脂漏性皮膚炎の改善には抗真菌剤配合シャンプーが良いとされています。
抗真菌剤配合シャンプーの利用により効果を示した報告があり、悪化した例はありません。
また2%ケトコナゾールシャンプーとステロイド外用薬を併用すると、より効果的と報告されています。
頭皮の湿疹が目立ちますが、美容院に行っても大丈夫ですか?
カットのみなら問題ありません。ヘアカラーやパーマは施術時に薬剤が湿疹に直接付着する恐れがあるため、避ける方がよいでしょう。
頭皮の湿疹が目立つ方は決して珍しくないため、恥ずかしがる心配はありません。また頭皮を強くこすらないよう伝えておけば、美容師も配慮してくれます。
不安な場合は、予約の時点であらかじめ事情を伝えておくと良いでしょう。
ステロイド外用薬の使用により耐性菌ができることはありますか?
(出典:(22)アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2021)
長期間にわたりステロイド外用薬を使用すると、耐性菌が発生する可能性はあります。
頭皮の湿疹に対して効果的にアプローチするには、用法用量を守り短期間の使用に留めることが推奨されます。
まとめ
頭皮や顔の湿疹の原因は、接触皮膚炎、脂漏性皮膚炎、アトピー性皮膚炎の3つに分けられます。また子どもの場合には、脂漏性皮膚炎やアトピー性皮膚炎の他、口舐め病によっても頭皮や顔に湿疹が起こります。
湿疹の種類によって原因はさまざまであるため、原因に合った予防法や対処法の実践が重要です。
症状がわからない場合は医師に相談し、適切な治療を受けるようにしてください。
文献
1)5)9)13).日本皮膚科学会雑誌 2020年130巻4号 p.523-567
2)6)11)14)21).日本医真菌学会雑誌 2003年44巻2号 p.77-80
3).日本医真菌学会雑誌 2005年46巻3号 p.163-167
4)8)12)15)20)22).日本皮膚科学会雑誌 2021年70巻10号 p.1257-1342
7).日本医真菌学会雑誌 2006年47巻2号 p.75-80
10).皮膚 1981年23巻6号 p.791-797
16).アレルギー 2003年52巻4号 p.431-433
17).小児保健研究 2012年71巻4号 p.526-535
18).アレルギー 2005年54巻5号 p.445-450
19).国立成育医療研究センター
監修者紹介
- 佐藤明男
- 東京メモリアルクリニック理事長
■ プロフィール
1957年新潟県生まれ。北里大学医学部卒業。
1998年、厚生省(当時) 高度先進医療推進事業でオックスフォード大学医学部客員研究員として英国に国費留学し、帰国後、東京メモリアルクリニック・平山副院長を経て院長に就任。医療法人TMC理事長を兼任。これまで10,000人を超えるAGA(男性型脱毛症)患者を治療してきた実績を持つ、頭髪治療の第一人者。
■論文・出版情報
2007年 『医療的育毛革命』
2009年 『なぜグリーン車にはハゲが多いのか』